今野浩喜の「タダのファン目線記」 造幣局さいたま支局編

今野さんが「ただのファン目線」で行きたい場所に足を運び、会いたい人に会い、書きたいことを綴る本連載。今回は、さいたま新都心にある「造幣局さいたま支局」にお邪魔しました。普段何気なくポケットに入れている小銭は、どれだけの手間をかけて造られているのか。案内役の湯本さんとともに、施設内の「工場」と「博物館」を見学しました。


実は近所に住んでいた?

今野「よろしくお願いします。ちなみにこれ、今は一般の見学もできるんですか?」

湯本「そうですね、基本的にはどなたでも見学いただけます」

今野「そうなんだ」

湯本「造幣局は国内に3箇所ございます。大阪の本局、広島支局、そして今日お見えになっているさいたま支局です」

今野「へ~~」

湯本「さいたま支局は以前、東京都豊島区の池袋にありまして、埼玉に引っ越してから今年で10年目を迎えます。ですから、建物も綺麗だと思っていただけるかなと」

今野「10年前からここにあったんだ」

湯本「当時、この辺は何もなかったんですけどね」

今野「俺、5、6年前までここのめちゃくちゃ近くに住んでたんですけど、まったく注目してなかった。すいません」

湯本「いえいえ、実は意外と知られてないんですよ。埼玉のみなさんにも広く知っていただけると思うので、今日のような取材はありがたいです」

今野「コクーン(さいたま新都心駅前の大型商業施設)に行くときに絶対通ってるはずですもんね」

湯本「コクーンの周り、昔は何もなかったじゃないですか」

今野「昔は園芸店がありましたよね。あんなでっかいショッピングセンターができるなんて」

湯本「そうですよね」

今野「コクーンって珍しいですよね。あそこにしかないローカルの商業施設なのに、あんなにでかいなんて」

湯本「うんうん」

今野「……コクーンの話こんなに広げてもしょうがないか(笑)」

3つの工場の役割分担

湯本「3つの工場はそれぞれ役割が違うんです。広島支局は、お金を溶かしてコインを造ることができる唯一の工場です」

今野「他の支局ではできないんですね」

湯本「はい。ただ、さいたま支局と本局は『勲章』というものを造っています。芸能人の方々も受章されている、あの勲章です。あとで展示も見ていただけますけど」

今野「……勲章。って、例えばなんですか?」

湯本「例えば文化勲章ですね。ほかに紫綬褒章(しじゅほうしょう)などの褒章もあります。オリンピックの金メダリストは、受章される方も多いようです。一部の勲章は、あとで造っている様子も見ていただけますよ」

今野「へ~~」

湯本「あと、さいたま支局の特色としては、『プルーフ貨幣』を造っています。普通のお金とはちょっと違いますね」

今野「プルーフ……?『ウォータープルーフ』のプルーフですか?」

湯本「少し違います(笑)。鏡のように光沢を持った、非常に綺麗なお金のことです。収集用貨幣ですね。黒い部分がまるで鏡のようになっていて、自分の顔もしっかり映るんですよ。あとは、『記念貨幣』というものも、さいたま支局では造っています」

今野「金貨とかも造ってるんですか?」

湯本「金貨は大阪本局がメインですね。広島、大阪、さいたまと西と東に工場を分けているのは、災害時のリスク分散の意味もあります。日本は災害の多い国なので、どちらかが止まったことでお金が造れない状況にならないようにしています」

6,000円で売っている“1,000円玉”

今野「(展示を見ながら)これがプルーフ貨幣か」

湯本「この貨幣には『埼玉県』と入っています。この方はどなたか分かりますか?」

今野「渋沢栄一さん」

湯本「そうです。川越市の時の鐘の絵も入っています。こういった記念貨幣もさいたま支局では造っています」

今野「は~~」

湯本「ちなみにこの額面を見てください。1,000円って書いてありますよね」

今野「はい」

湯本「これ、製造当時の販売価格は1枚6,000円でした」

今野「6,000円で買って、使うときは1,000円ということですか?」

湯本「そうです」

今野「猛烈に損ですね」

湯本「(笑)。でもこれ、純銀でできているんです。銀を31g使用していて、今の銀の相場が1g400円くらいなので、1枚12,400円ほどの価値があると言えます」

今野「なるほど。1,000円として普通に使うと損だけど、銀として持っておけば価値があるんだ」

湯本「そうですね」

今野「ウチにも金貨があった気がするけど、どこに行ったか分かんないなあ……」

湯本「ぜひ探してみてください」

特別なお金は自動販売機でも使えるのか

湯本「プルーフ貨幣の造り方について話していきます。普通のお金との一番の違いは、『研磨』です。模様をつける前の金属の板のことをわれわれは『円形(えんぎょう)』と呼んでいるのですが、それを磨きます。普通のお金にはそんなことしません」

今野「へ~~」

湯本「さらに『圧印』という作業にも違いがあります。普通のお金は一回で終わりですが、プルーフは2度、3度と同じ場所に模様を打っていきます。模様をより鮮明に、深く作るためです」

今野「ほお」

湯本「あと、錆びないようにするための特別な加工も行われています」

今野「それは普通のお金にはされてないんですか?」

湯本「はい。そして、最後に1枚ずつ人の目で検査して、合格したものだけが販売されます」

今野「販売ということは、使おうと思えば使えるということですか?」

湯本「使えます」

今野「じゃあ、出回ってないわけでもないということか」

湯本「そうですね。そんな人はあまりいないと思いますが、可能性としてはありえます」

今野「こんなにいろいろな過程を踏まえて造ったものでも、自販機とかで使えるということか」

湯本「……でも今の自販機は優秀なので、特殊な塗装のせいで機械が反応しないかもしれません。使ったことないので分かりませんが(笑)」

なぜか職員の反応を気にする今野さん

湯本「では、実際にプルーフ貨幣を造っているところを見ていきましょう。今ちょうど、あぶくだらけになってる機械が見えますかね。巨大なお釜の中でゆすいでいます。磨く作業です」

今野「何を磨いているんですか?」

湯本「円形というお金になる前の金属です。洗剤を使って振動させて磨きます。磨く前とあとでは全然違いますよ。上の段が磨く前、下の段が磨いたあとです」

今野「へ~~」

今野「(掲示を見て)……あの、めちゃくちゃ『撮影禁止』と書いてありますけど大丈夫ですか?」

湯本「大丈夫です(笑)。本当は禁止ですけど、今日は取材なので」

(移動して)

湯本「磨いたものに模様をつける作業をここでしています」

今野「ここって、向こう側からこっち見えてるんですか?」

湯本「見えてますよ」

今野「こっちの声は聞こえてるんですか?」

湯本「聞こえてないですね」

今野「ほんとですか?今ちょっとこっちを見ましたけど(笑)。こういう工場見学の施設の方って、見られてること意識してるのかな」

湯本「仕事に集中してると思います」

今野「あ、たしかに耳栓してる」

湯本「プルーフ貨幣は1日に千枚くらいしか造れません。普通のお金からしたら不経済なくらい手間をかけています」

今野「たしかに、ただの新しいお金とはまた違うキレイさがありますね」

湯本「まさに職人技です」

今野「よく『お酢を使えば硬貨はキレイになる』とか言いますよね。あれホントなんですか?」

湯本「そうですね。造幣局としておすすめするわけではありませんが、実はタバスコでもキレイになるんですよ。10円玉とか」

今野「タバスコ!?ホントなんですかそれ」

湯本「はい。あとは、歯磨き粉も」

今野「お金を綺麗にできるものを食べているって考えると、ちょっと怖いな」

プルーフ貨幣の価値について

湯本「ここからは印刷の工程です。このシリコンのパッド、触ってみてください」

今野「……硬いんだか柔らかいんだか分からないですね。表面は柔らかいけど芯はある感じ。あっ、讃岐うどんみたいな。うん、武蔵野うどんとは違うな」

湯本「(笑)。このパッドに色をつけて、ハンコのようにお金に押しつけていきます。まさに今やっていますよ。見てください」

今野「おお。これは何色くらい使ってるんですか?」

湯本「白、黄色、赤、青、黒の5色です。ドットの集まりでいろいろな色を表現しています」

今野「この色、落ちないんですか?」

湯本「もちろん、なかなか落ちないですよ」

(別の階に到着)

湯本「ここまで造ったものを人の目で1枚ずつ確認し、合格したものだけがこうして並んでいます」

今野「まれにある価値がある貨幣、例えば真ん中の穴がズレてるやつとかって、その検査をくぐり抜けたものってことですか?」

湯本「……認めたくはないですけど、そういうことかもしれません。でも、今はそういう貨幣が世に出る可能性はほぼゼロですよ。プルーフ貨幣も、通常貨幣も」

今野「変な話、そういう貨幣が見つかったときに、こっそり持ち帰るなんてことも……」

湯本「職員は工場に出入りするときに必ず金属探知機を通るので、絶対にありません」

今野「そりゃあそうですよね」

湯本「ちなみに、プルーフ貨幣の値段はこんな感じです」

今野「へ~~。これくらいするんだ」

湯本「大人の方はこれを見て『それくらい価値があるよなあ』と分かってくれるんですけど、残酷なもので、子どもは『666円しか入っていないのにこんな値段するの?』とよく言うんです(笑)」

今野「まあそうなりますよね」

湯本「でも、錆びにくいので、記念に買われる方も結構いますよ。下の売店でも売っています」

今野「お金をお金で買うって、不思議な感じですよね」

年銘別製造枚数を見ての気づき

湯本「ここからは通常貨幣の造り方を見ていきます。メインは広島支局でやっていますが、さいたま支局ではこの『圧印・検査』と『計数・袋詰め』の作業をやっています」

今野「そうなんだ」

湯本「では、実際に造っているところを見てみましょう。圧印作業と検査作業の様子です」

今野「すごっ、メダルゲームみたいに硬貨が出てきてる」

今野「でも、ここも数人しか職員の方がいないんですね。もっといるのかと思ってた」

湯本「今はあらゆる工程の機械化が進んでいますから」

今野「へ~~」

湯本「こちらは、年銘別のお金の製造枚数のグラフです」

湯本「500円玉ができたのは、昭和57年(1982年)です」

今野「そこまでお札だったのか」

湯本「そうです。500円札でした。平成元年にこのねずみ色のグラフ(1円玉)が一気に増えてます。どうしてでしょう?」

今野「……あ~~そうか、消費税導入」

湯本「そうです。ただ、見てのとおり、平成28年(2016年)から1円玉はほとんど造ってないんです。プルーフ貨幣などは造っていますが、流通用にはもうほぼ造っていません」

今野「ほんとだ、ほぼ造ってない。消費税導入あたりの時期に大量に造ったのでもう足りてるってことか」

勲章造りの驚異の集中力

湯本「最初にお伝えしたとおり、勲章もさいたま支局で造っています。勲章は基本的にはすべて純銀製です。この『2』の『圧写』というのは、十字型の金属の板に勲章の模様をつける作業です。ここまでは大阪本局でやっています。さいたま支局は圧写されたものをもらって、そのあとの工程を進めています」

今野「へ~~」

湯本「『七宝焼き(しっぽうやき)』という技法をご存知ですか?」

今野「知らないですね」

湯本「ガラスの粉を水で溶いて、金属に付着していくんです。それを焼いていくと、水分が蒸発して、ガラスだけが模様として残るんです」

今野「へ~~。これ、筆で塗ってるんですね」

湯本「そうです。それを700度から900度の高温で焼きつけます。非常に精密な作業です」

今野「それ専用の機械があること自体がすごい」

湯本「この部屋は製造工程が見える部屋です」

今野「なんかここは若い人が多いですね」

湯本「そうですね。みなさんすごい腕前です」

今野「ここもみんな(見られているのを)意識してるのかな……」

湯本「ちなみに、ここはこちらの声が(作業者に)聞こえていますよ(笑)」

今野「(小声で)えっ、ホントだ、『お静かに』って書いてある。聞こえてないと思ってしゃべってました。すいません」

湯本「いえいえ(笑)。この画面には、模様をキレイにするための作業をされているあそこの女性職員の手元が映し出されています」

今野「ホントだ、削ってる……。こんなに見られててもブレずに集中できるのすごいですね。これは何を削り取ってるんですか?」

湯本「わずかな隙間にこぼれたガラスの粉を残したまま焼いてしまうと、固着してしまうので、それを取っています。この作業をいかに精密にできるかが勲章の完成度を左右します」

今野「そうなんだ。こんなにたくさん造ってますけど、それほど授与する機会があるってことですか?」

湯本「『春秋叙勲』では、毎回だいたい4,000名の方に勲章が授与されますよ」

今野「え~~、だったら俺ももらう機会あってもいい気がする」

湯本「(笑)。今野さんもいつかもらえるといいですね。これが、さいたま支局で製造している勲章です」

湯本「勲章は全部で22種類ありますが、ここではそのうち4種類を造っています。左の『瑞宝』という名前がついている十字形の種類は、主に公務員の方が受章され、右の『旭日』という朝日の形をしている種類は、主に民間の方々が受章されることが多いです」

今野「じゃあ、まず俺が瑞宝をもらうことはないということですね」

湯本「そうですね(笑)。校長先生とかがもらっていたりします」

今野「あ、職人感のある方がいる。(小さい声で)こんにちはぁ」

湯本「彼は大臣から表彰を受けているほどの腕前ですよ。これは使用している工具の一部です。職員それぞれが使っていく中で形なども変わり、“オリジナル”の工具になっています」

今野「これは支給されるんですか?コメリとかで買ったりして……」

湯本「いえいえ(笑)。もちろん基本は支給されますけど、みなさん自分の手に馴染むように自分で手入れしています」

日曜休みは造幣局がはじまり?

湯本「ここからは博物館を少しご案内します。造幣局を作ることを決めたのが明治2年、創業式を行ったのが明治4年です。大阪にできた理由は、当時の江戸の治安が悪かったことと、大阪の商人のみなさんからお金を借りて造幣局を作るためと言われています」

今野「へ~~」

湯本「当時は日本にお金を造る機械がなかったので、香港から中古の機械を一式買って、いわゆる“お雇い外国人”の方から技術を学びました」

今野「外国の方を雇ったんですね」

湯本「そうです。お金を造るには酸・アルカリなどで金属を溶かす必要があります。そういう技術を外国の方から学んだわけです。これは当時の出勤簿です」

今野「はい」

湯本「当時の造幣局は日曜日が休みでした。お雇い外国人にキリスト教徒の方が多かった影響ですね。日曜日はお祈りをする日なので。各省庁が日曜日を休みに定めたのが明治9年。造幣局は明治5年から日曜日を休みにしていました。つまり……」

今野「えっ、日曜休みを始めたのは造幣局ということ?」

湯本「という説もあります。それまでは『お天道様が昇っている間は働く』といった考えもあったくらいでしたから。今のみなさんの休みがあるのも、もしかしたら造幣局のおかげかもしれません」

今野「すごい」

湯本「これはお金の元になる金属です」

今野「へ~~」

湯本「こちらは北海道から沖縄まで全都道府県の記念貨幣です」

今野「そんなのいつの間に造ってたんですか」

湯本「平成20年から8年間かけて造っていました。こちらは万博の金貨です。これ1万円の金貨なんですよ」

今野「ミャクミャクだ」

湯本「そうです。そしてこちらはW杯の金貨です」

今野「おお、2002年のやつだ。いろいろな金貨があるんですね」

最後に体験コーナーでお楽しみ

湯本「最後に体験コーナーを少しご紹介します。これはそれぞれの金額に応じた枚数の硬貨が入っています。よかったら持ち上げてみてください」

今野「おんもっ!!」

湯本「重いでしょう」

今野「(なぜか通りがかった一般の見学者の方に)これ重いですよぉ……」

湯本「こちらはトリックアートになっています。よかったらお金を持っている風の写真を撮ってみてください」

今野「難しいなあ。こうかな」

湯本「いいですね」

今野「ご一緒にどうですか」

湯本「いいんですか(笑)」

(なぜか湯本さんを持つ今野さん)

今野「持っているように見えます?」

湯本「いえ、(私を)持ってます(笑)」

今野「これは?」

湯本「千両箱です。20kgくらいあります。大判は入ってないですけど。持ってみてください」

今野「腰いわす人いそうだな、これ。……」

湯本「ではこちらへ。お金の『健康診断』もしてみましょう。子どもたちに結構人気なんですよ」

今野「お金の健康診断……?」

湯本「厚さや重さを踏まえてその硬貨の健康具合を計るんです。この500円玉を入れてみてください」

今野「はい」

(健康診断中)

今野「……あ、『健康』って出ました」

湯本「なかなか『働き過ぎ(摩耗)』とは出ないですね。それだけ日本のお金は性能がいいんです」

今野「なるほど」

湯本「というわけで、今日はありがとうございました」

今野「ありがとうございました。初めて知ることばかりで楽しかったです」


※工場内・展示内容の撮影は特別な許可をいただいています。



構成:田中 直希
協力:独立行政法人造幣局さいたま支局
〒330-0835 さいたま市大宮区北袋町1-190-22
大宮情報文化センター(JACK大宮)
Tel 048-647-0011

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