今回は、レッドブルグループ傘下である「レッドブル・ブラガンチーノ」のホームスタジアム探訪をお届け。なでしこジャパンのブラジル遠征(5/30~6/2)に帯同していたオフィシャルカメラマンの早草紀子さんに、第2戦の開催地となったスタジアムを“急きょ”取材していいただきましたので、その魅力や特徴を印象的な写真の数々とともに紹介します。
魅力満載。レッドブル・ブラガンチーノのスタジアム探訪
サンパウロ市内から2時間かけて試合会場へ
「2戦目のスタジアムは地元ブラガンチーノのホームスタジアムだよ」——なでしこジャパンのブラジル遠征の取材でサンパウロに入った際、現地記者との会話でその事実を知りました。なんか聞き覚えがある…え?あのレッドブル・ブラガンチーノ!?
同じレッドブル傘下のブラガンチーノのことは目にしていましたが、今回は試合が行われるスタジアムの公称しか見ていなかったため、全く気づかず。サンパウロ市内から約100km離れていたため、治安面も含め不安の多かった第2戦目へ向けて俄然やる気が沸いた瞬間でした。
サンパウロ市内はひったくりや、スキミングなどが多発していて、旅行者にとっては最大限の緊張感を持って挑まなければならない街です。今の流行りは、車が信号待ちなどで停車した際に、スマホを触っていようものなら、窓ガラスを叩き割って奪っていくスタイルなのだとか(一部地域)。タクシー乗車時に該当エリアに入った際には、ドライバーからスマホやラップトップを外から見えない位置に下げるよう指示を受けたこともあり…恐ろし過ぎます。
そんな治安下で、ブラガンチーノのホームタウンであるブラガンサ・パウリスタへの移動。サンパウロ市内中心地からは約2時間強の道のりです。昼間であればバスで移動しても大丈夫かな~と軽く考えて調べてみる。路線バスを何本も乗り継いで片道5時間。ホテルスタッフには「バス!?絶対におススメできない!!」と全力で止められ、時間的にも治安的にもメンタル的にもアウトでした。
手段として有効なのは海外でタクシー代わりに重宝するUber。片道6,000~7,000円ほどで行けますが、問題は帰路でして…。ブラガンサ・パウリスタからサンパウロまで走ってくれるUberを見つけるのは至難の業。結果、深夜にスタジアムを出ることになる試合当日はサンパウロでタクシーを貸し切り、試合前日は現地記者の車に同乗させてもらうことに。ちなみにその車両は防弾車で、もう一台車を買えるほど値は張るそうですが、一度その恩恵に預かりかけたのだとか。扉という扉はめちゃくちゃ重いのですが、安全はある程度お金で買えるのだと再確認させてもらいました。
スタジアム周辺のあれこれ
順調に渋滞にハマりながら高速を走り、ブラガンサ・パウリスタに入ると車のポテンシャルを試されそうな急激な坂を上ってカンピオナート・ブラジレイロ・セリエA (ブラジル1部リーグ)で3位につけているブラガンチーノのホームスタジアムであるEstádio Cícero de Souza Marquesに到着です。ブラガンサ・パウリスタは大都市郊外の小さな街、というそのままの印象。自然豊かでサッカー選手やセレブも住まうとドライバーは言いますが…ここが?まあ、きっとそういうエリアもあるのでしょう。
スタジアム周辺はもっと身近な感じです。そしてソーセージの生産地として有名!地元のシュラスコ店は大行列でした(もちろん並ぶ)。食べ放題もありましたが、私は量り売りを選択。マストのソーセージのほか、欲しいお肉を指さしながら切り分けてもらい、ビュッフェで野菜やフルーツなどを盛りつけて1,300円程度。美味しくないわけがない。サンパウロ市内よりも安ウマなお店が多そうでした。街中の治安面はサンパウロ市内よりも幾分か安全そうに見えました。
そんな街の丘の上にあるスタジアムには見慣れたエンブレムがそこかしこにあり、急激に親近感を抱きながら敷地内へ。聞けば数日前にRBライプツィヒがここを訪れ、サントスFCと対戦したばかりなのだとか。その名残を感じつつ歩みを進めます。
警備にあたってくれている屈強なポリスの方々を発見。ダメもとで「写真撮らせてもらえますか?」と聞くと、その場にいる全員が集合して自発的にポーズを取ってくれました。これもお国柄ですね。ちなみに試合当日は騎馬隊も出動していました。
びっくりの連続?いよいよスタジアム内へ
まず最初に目にするのが屋根つきのフットサル場。ブラガンチーノの選手のプレーやサポーターのパネルが掲げられており、広告ボードがあったので普段は試合後の選手たちがメディア対応をするミックスゾーンとして使用されているようです。
そこを抜けると小さな建物があり、ホーム&アウェイチームのロッカールーム、ケアルーム、シャワールームが備わっていました。お手洗いを借りようと教えられたドアを開けると…ビックリ!そこはまさかのブラガンチーノのロッカールーム。なんというか…とても自由です。敷地内の建物は全体的に古さを感じますが、どれも使いやすくリノベーションされていました。
点在する建物をすり抜けていくとようやくピッチと対面。ピッチ脇にたたずむブラガンチーノのエンブレムつきのTシャツを着たお姉さんにいろいろ聞いちゃおう!と声をかけるとグラウンドキーパーの方で、「詳しい人を呼んであげる」と幸運にもチームスタッフに話を聞くことができました。
改修中の本拠地と、仮住まいの市営スタジアム
この施設は市の持ち物で、レッドブルが改修したそうです。というのもここから約3kmのところにNabi Abi Chedid Stadiumというブラガンチーノの本拠地があるのですが、頑張っても17,000人収容が限界な上、老朽化問題もあり。最近、ブラガンチーノが常連となっているコパ・リベルタドーレス(南米サッカー連盟主催のクラブチームによる大陸選手権大会)には規定があり、会場とするには20,000人規模のスタジアムが必要で、今はほかの地域のスタジアムを借りているそうです。
この現状を打破するため、歴史ある本拠地を4年かけて20,000人規模のアリーナに改修予定。その間の仮ホームとして市営スタジアムを改修し、今年の5月にこけら落としをしたばかりです。8,000人~10,000人収容を想定したとのことなので、NACK5スタジアム大宮と似たような規模感でしょうか。ピッチとスタンドの距離も近く、バックスタンドには屋根があるのでチャントや歓声もよく反響し、臨場感は文句なし。観客のどよめき一つまでハッキリと感じ取ることができます。
もう少し日程に余裕があれば、ブラガンチーノの試合の雰囲気も体感してみたかった…。きっとまた違う空気感に包まれていたことが想像できます。コンパクトなため、大きな大会の招致は難しいそうですが、2027年に初めてブラジルで開催される女子W杯のキャンプ地として手を挙げたいとのこと。隣街にはリゾートホテルもあるので、キャンプ地としてはちょうどいいかもしれません。
スタジアム内にはショップもあり、ユニフォームはもちろんキャリーバックやTシャツ、マグカップなどグッズの数も豊富でした。その場で名前入れもしてくれます。
もちろん(?)スタジアムは有刺鉄線で覆われていますし、試合当日は交通規制も行われ、コンパクトなスタジアムでもセキュリティはまずまず。運営面でも地元住民や女子学生ボランティアの姿も多く、ピッチには時折、野生動物の姿を見ることもあります。SCコリンチャンス・パウリスタのNeo Química Arena(なでしこジャパンのブラジル遠征の1試合目の会場)に比べるとかなりアットホームで親しみやすい雰囲気でした。
いつか、アルディージャとブラガンチーノが対戦する、なんてこともあるのかな?…そんなことを想像しつつ、時差ボケと戦いながら38時間かけて帰国。個人的にブラジルは過酷な遠征地トップ5に入りますが、今回は思わぬ巡り合わせで疲労も吹っ飛ぶ海外遠征になりました。
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。