ピッチ上でのワンプレーに、クレバーさがにじみ出ている——それが上田佳奈 選手です。ゴリゴリのストライカー出身のボランチは、どのようにしてそのスキルを身につけてきたのか、聞けば聞くほど頭脳派であることが分かります。それでいて、プライベートはちょっと不思議な感覚の持ち主ではありますが、すべて“被り嫌い”が共通項として存在していることが判明! そんな上田選手のVENTUS PRESSをお楽しみにください。
Vol.67 文・写真=早草 紀子
——上田選手の普段の姿があまり想像できないのですが…。
犬と戯れてます。トイプードルのキキィ(メス)3才とグク(オス)2才がいるんですけど、もう仲が悪くて…。でも出掛けてるときに家のカメラ見ると2人でくっついて帰りを待ってたりもする不思議な関係性の2人です。グクは若い女の子が大好きで、キーちゃんはおじさんが大嫌い。何がそうさせてるのかを知りたい(笑)。イチゴとかキュウリとか人間の食べ物が好きで、無添加とかにもこだわったりしちゃうので我が家では愛犬のゴハンが一番高価かもしれません。
——今やってみたいことは?
ラテアート! 自宅でこれできる人いなさそうじゃないですか?手先は起用な方なので、最近購入したコーヒープレスで練習してみようかと思ってます。人と被るのが嫌いなんで、普通の人ができないことをしてみたい。まず葉っぱとハートから始めてみようかな。セカンドキャリア大事ですから(笑)。あとは文字にも自信があります! 左利きなので手首が回せないから筆では書けないんですよ。硬筆なら左で書けるけど、書道のときは右で書くように補正しました。ちなみに字だけ左利きで、箸もはさみもボール蹴るのも右利きっていう…(笑)。人と被りにくいサウスポーがよかったー!
——すごく“被り”を気にするじゃないですか(笑)。
そこは譲れません!
——だからお部屋にイルミネーションがあるのでしょうか?
説明します(笑)。誕生日のときの装飾や、ツリーにつけるイルミネーションあるじゃないですか。あれをベッドのところに飾ってるんです。それをつけると寝るモードになる。光も8種類くらいあるんですよ。そもそも寝つきが悪くて、友だちからすすめられたんですけど、けっこうリラックスできていいんです。さらに一生モノだと思って“じぶんまくら”で枕を作ったんですけど、そのときに思い切ってマットレスも購入! ロングスリーパーなので、良質な睡眠を得たい! 変わりますよ~。おすすめです。
——上田選手はもともとストライカー出身ですが、他にはどのポジションを経験しましたか?
高校1年生まではトップで、下がっても1.5列目。高校2年生から中盤をやるようになりました。だから日ノ本学園高でサッカー観がガラッと変わりましたね。
——視野が大きく変わりますよね。
だから映像をすごく見ました。今でも見ますが、今はちょっと分析目線で見ちゃう。海外はフィジカルの差がありすぎて異次元。Jリーグはまだなんとか参考にできるけど…、そうなると現実的には女子を見た方がスピード感が一緒かなと思ってWEリーグの他のチームもけっこう見ます。ライバルチームだろうがなんだろうが、盗めるものは全部盗みたいってマインドで。海外のサッカーは楽しみながら、女子のサッカーは研究しながら見る。オフにずっとサッカー見てることもあるんですけど、そのなかにも自分的にはちゃんとオンオフがある…。なんか自分で言ってても地味なオフだな(苦笑)。でもちゃんと息抜きにもなってます。
——とことん極め型なんですね。
そうなんですけど、正解にたどり着いたことはほぼない(笑)。でもいっぱい引き出しが増えました。これ! っていうものだけをやって通用しなかったらもうどうにもならないっていう状況にはなりたくなかったから。この考え方は中盤に関わるようになったときからだから、そこがターニングポイントですね。
——そこから今につながっているものは?
サッカーノートを書いてたんですけど、それが頭のなかにイメージで浮かぶというか、頭の中に引き出しがあってそれを図で出せるタイプなんです。今もそうなんですけど、そのイメージがほぼ高校のサッカーノートがベース。当時の指導が「ここでボールを受けたらここが反応するから、ここが空く」っていう感じだったので、それをどんどん応用してます。そのイメージがぜひ俯瞰であってほしいんですけど、そこはまだ2D(笑)。俯瞰で見れるようになったらスタメンに入れると思って頑張って俯瞰モードを目指してる最中です。
——そこで何が一番飛躍したと思いますか?
特に守備ができるようになった。ゴリゴリのストライカーだったから(笑)。世代別の代表にもFWで選ばれていて、数字は残してたんですけど、圧倒的に守備ができなかったんです。まだFWだからごまかせてたけど、そこで痛い目にあった(笑)。ボランチになったことで守備ができないと話にならなかったんです。でもその守備が武器だと思えるようになるまで4、5年かかりました。実際、VENTUSへは守備力が買われてのオファーだったんです。サイズはなくても危ないところを潰す。自分が前向きで、ハイプレスで自分が待たない守備に良さが出ると思ってます。
——今、VENTUSは自分たちの時間を増やすために少しでも高い位置で守備ができるように奮闘中です。ということは?
自分の持ち味が生きる。だから昨シーズンよりも出場数が増えてるし、攻撃のところで評価もしてもらっているんですが、ここが難しいところで…。WEリーグのレベルではまた守備が課題になっています。監督にもそこを求められていて、もともと守備を強みにしてたんだから、それをちゃんと通用させたい。
——通用させるために必要なことは?
一つの場所を背中で潰しながら前に強く出ることが強みだから、いかに後ろをうまく消せるか。一つのかけひきで二個消して、最終的に自分の取りたいところにボールを出させるのが理想です。攻撃では自分の動きで複数の相手の動きを止められてるんです。それを守備でしたい。そのためには前との連係が大事になってくると思っています。
——今、欲しいのはそのための視野ですか?
スピードも欲しいですけどね(笑)。ただ現実的にはフィジカルかな。サンフレッチェ広島レジーナの上野(真実)選手と対戦したとき、最後パワーで負けたことがあって…。そういう場面を少なくするために昨夏からウェイトトレーニングを始めました。フィジカルコーチからも「当たり負けしなくなってきた」と言われて、少しずつ成果が出てきたところです。
——ゴールへの意識は?
超理想はそこなんですよね。やっぱりゴール前に入っていきたい気持ちはあります。キックには自信があるし。簡単に場所を空けていいポジションではないけど、今のチーム状況を考えたらどこかでリスクを背負わないといけない。最後もう一個前に出たいので、そのためにはもうちょっとボールを持ちたいです。まずはミドルを狙っていきます!
——少しずつチームが変わってきている手ごたえはあると思います。意気込みをお願いします。
これまで試合にあまり絡んでこれなかった分、いい意味でファン・サポーターの皆さんを裏切りたい! プレースタイル的にも分かりにくいと思うんですけど、初めて見に来た人にも伝わるくらいの存在感を出したいと思ってます。みんながキツくなってきた途中からどんどんボールを受けるとか、今そこで2、3人引きつけてくれたからシュートチャンスができたよなとか、間接的にでもサプライズなプレーを届けられるようにがんばります!
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。