巻き返しを誓った後半戦開幕のノジマステラ神奈川相模原戦の開始48秒、欲しくてたまらなかった先制ゴールを決めたのは金平莉紗 選手でした。ホームで今シーズン初勝利を勝ち取るために、彼女は静かな、けれども熱い闘志を燃やしていました。今回のVENTUS PRESSではそんな彼女のしなやかな強さが養われた10代、オフの部分などを存分に語ってくれました。
Vol.66 文・写真=早草 紀子
——金平選手といえば、小学校時代には野球とサッカーの二刀流、球技全体が得意と聞きました。めちゃくちゃ起用ですね。
小学校の頃って、身体の大きさやスピードとかで男の子に負けないじゃないですか。だからできていたというのもあります。でも体操系は苦手でした。
——あれ?でも試合前に3点倒立をしてるという話を耳にしましたが…?
あれは高校のときにバランス感覚を養うために勧められてできるようになっただけです(笑)。バランス感覚もですけど、バス移動とかあるとなんか血を下に流したくなるのでちょうどいいかなって。
——そういう物理的な問題ですか(笑)。ときに、金平選手は優柔不断なんですか?
はい…。何事も、スパッと決められない。ハンバーグと生姜焼きなんてメニューがあったら…「早くして! 」って友だちにも言われます。服とかで迷ったらいったん持ち帰って考える。今、決めなくてもいいかって思っちゃうんです。だから欲しいものがずっとあります(笑)。
——ちなみに今欲しいものは?
AirPods! でも今持ってるのがまだ使えるんですよ。だから、まぁいっか。って先延ばしになってます。けっこう使い倒すタイプで、電気製品は大学時代から全く変えずに使ってるので親に心配されます(苦笑)。あと欲しいのはスニーカー。一人暮らしの量ではないほど持ってます。引っ越しのタイミングで何足かは「ありがとうございました! 」ってしましたけど整理するのって難しいですよね。服も一年半着なかったら捨てるって自分の中では決めてるんですけど、それができない! いつか使うかな~って思っちゃう(苦笑)。
——サッカーの話をお伺いしたいのですが、ポジションはずっと最終ラインですか?
中盤もやりましたけど、中学のときは1年ごとにポジションが変わってて、1年がSB、2年がボランチ、3年がCB。高校3年間はCBでした。今一番自分がしっくりくるのはやっぱりSB! といってもCBも全然イヤじゃなくて楽しいんですけど、上がりたくなっちゃうんですよ(笑)。インターセプトが楽しくなったのはCBですけどね。
——中学時代の変動がスゴイですね。出身の岡山県は女子サッカー環境が厳しいと聞きます。
私が通える県北はなでしこリーグの岡山湯郷Belleの一択でした。当時、なでしこジャパンの中心選手だった宮間あやさんがいて、トップの練習が終わってから自分たちの練習が始まるのでよく見てましたし、練習試合に出させてもらうこともありました。
——W杯優勝後は強烈な影響を受けたのでは?
今の違うんじゃないかってプレーが出るとあやさんが止めて、やり直したりしてました。世界に通用するあやさんのFK、すごかったじゃないですか。練習ではあやさんがGKをして、そこから見えた景色で、「ここだったらここ取りにくいな」みたいな感じで練習してたんです。こういう練習もするんだって思いました。あれを見てて自分も練習して左足で蹴られるようになりました。あと…、当時の監督にあやさんと同じ背番号を渡されてて…。
——最終ラインのころに、ですか?
そうなんです(笑)。「トップの10番はああいう選手なのに、お前はそれでいいのか」ってハッパかけられてたんですけど、「でもポジション違うし」とか思いながらも、10番が持つ意味、サッカー選手としての在り方、技術…。それらをつねに模索してました。でもあやさんがすごすぎて…、ずっと泣いてた気がします(笑)。負けず嫌いっていうか、球際を強気にいけるのはそのときの練習の賜物です。あやさんと身近で交流できた貴重な経験でした。
——そういった経験を重ねながら戦っているプロリーグであるWEリーグでご自身の中で変化したものはありますか?
ちふれASエルフェン埼玉の2年目くらいまでで、高いレベルでプレーする難しさを感じて…、でもそれは楽しくもある。本当に自分の実力が追いついてなさ過ぎるのを実感しました。1対1をめちゃくちゃ練習したんです。3年目に試合に出られるようになって、ようやく守備への手応えをつかんだのがこのころでした。
——スキルとともに、フィジカル面でも取り組んだことはあったんですか?
体作りのところでもお世話になってる先生がいて、根本的な歩き方やその姿勢からすごく地道なんですけど、実際にケガをしなくなったし、大事な一歩が出るとか実感があるんです。ただその“一歩”に差を感じるまでに私はめっちゃ時間かかりましたけど(苦笑)。
——さらにここから積み上げたいところは?
前半戦を振り返ると、一歩で打開できるところとかも何回もあったし、それが出遅れて、相手の方が先に触ってピンチをまねいたことも多々あった。だからもっと準備の段階を極めていかないといけないと思ってます。特にポジショニング。守備の立ち位置が違ってることもあったから、そこは周りと守備の意識とか連携が今は高まってきつつある。コミュニケーションは今めっちゃ増えてると思うし自分は守備のときもっと首振らなきゃなっていうのが前半戦の課題でもあったので、そういうところは後半戦にもっとつなげていきたいなと思います。
——今シーズン掲げている目標設定はありますか?
数字を残したいって思ってまして、チームの色もあったんですけどエルフェンのときはスタッツでいくつか数字がちゃんと残った。今シーズン移籍して、そこは落としたくなかったんですけど、今、デュエルの勝率が低いんです。うまくいかない中でも自分の中でのこの勝率を上げていくべきだったし、その上でゴールであったり、アシストの部分であったりっていうチームの結果につながる数字を残したいです。
——サイドのデュエル勝率が上がるとイニシアティブ取れますね。その強度は上がってきてますか?
はい! 新加入が入ってきて、そこの強さに負けないっていう自分も含めて後ろの意地もあるし、すごい点を入れてた人たちが入ってきたからこそ、練習で一瞬でも気を抜いたら、パン! って打たれる。とにかくシュートが増えました。前の競争が上がると、そこと対峙する守備側にも競争が生まれる。それはすごく感じていて、練習中に球際が激し過ぎて飛ばされたりするのが日常になりました。
——その変化、ぜひ後半戦の戦いにつなげたいですね。
前半戦は本当に不甲斐ない結果になってしまいました。リーグ戦再開後は、自分たちが前半戦とは違うというのを絶対に見せなきゃいけない舞台で、そこで見せられなかったら、自分たちが新加入の人たちを加えた始動日から何をしてきたんだってなる。巻き返しのいい流れをつかむために、何があっても最後まで走り切るし、球際も負けないし、すべてを懸けて後半戦を戦う準備ができています。皆さん、一緒に戦ってください!
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。