選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回は12月21日(土)に行われる「南雄太引退試合」の開催を記念した「特別編」(計4回)の最終回として、南氏に引退試合開催への思い、ファン・サポーターへの思いを語ってもらいました。
聞き手=戸塚 啓
NACK5でこの試合が行われることの意味
――連続インタビューの最終回は、GKでは史上初の引退試合の実現へ至った思いからうかがいます。
「現役引退を決めた段階で、大宮アルディージャとそういう話をさせてもらって、大宮ではまだ誰もやったことがないと聞いたんです。金澤慎のようなレジェンドもやっていないということで、それならば自分がトライすることでクラブとしても今後につながるんじゃないかな、ということも考えました。引退後に横浜FCで仕事をすることになったのですが、大宮だけでなく横浜FCもいろいろと協力してくれているので、感謝の気持ちでいっぱいです」
――引退のセレモニーとはまた違う形で、これまで所属したクラブのファン・サポーターに、これまでご自身に関わってくれた方々に、感謝のメッセージを伝える機会になりますね。
「引退試合は一度限りの舞台です。自分も楽しみですし、出場してくれる選手たちにも思い切り楽しんでほしい。それを観た人たちも、楽しんでくれたらいいなと。サッカーにあまり詳しくない方でも、知っている選手ばかりじゃないですか。最近はあまりサッカーを観ていないなという方でも、このメンバーなら分かるでしょう。大宮もここ数年はJ2で戦ってきて、今年はJ3で、国内のトップリーグというものを久しく味わうことができていません。そういう中で、NACK5スタジアム大宮にこれだけの選手が来てくれることになったので、ホントにみなさんに楽しんでほしいです」
――彼らがNACK5スタジアム大宮のピッチに立つことを想像すると、自然と胸が高鳴ります。
「僕も高鳴ります。NACK5スタジアム大宮でこの試合が行なわれるということが、とても貴重でかけがえのないことだと思うんです。純粋にサッカーを観ることを楽しむとか、 自分の好きな選手のプレーを楽しむとか、勝ち負けがない試合だからこそ、エンターテインメント性が高くていいなと思いますね」
――エキシビションマッチや引退試合などは、たくさん点が入ることで盛り上がります。けれど、ファン・サポーターは南さんのファインセーブを見たい。このバランスはどうしましょうか。
「どうせなら、たくさん点を取ってほしいです。ゴール前の攻防が多いほうが、試合としては面白いですよね。そこはもう遠慮せずに、バンバン取ってほしいです」
――南さんはフル出場の予定ですか?
「もちろん、できる限りやります(苦笑)」
――コンディションを仕上げていくのは大変では?
「そうですね、はい。どうしようかなと思っています」
――今日は11月初旬ですが、どれぐらいのペースで身体を動かしているのでしょう?
「横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールで、GKクラスのコーチをやっています。他での指導も含めて、ボールはほぼ毎日蹴っています。ただ、GKとしての自分のトレーニングはまだやっていません。いまはまだテレビの番組とかイベントで、フットサルのGKをやったりするくらいです。引退試合に向けて、どこかのタイミングでスイッチを入れていかなきゃと思っています」
――でも、追い込み過ぎてケガをしたら困りますし。
「そこのせめぎ合いは、かなり難しいですね。やり過ぎて直前で肉離れとかしたら、もう笑えないので。サポーターの方からも、『ケガに気をつけて、引退試合を迎えてください』ってすごく言われます」
――試合中のケガにも、気をつけないといけないですね。
「試合中はもう、気にしません(苦笑)。翌日以降の仕事に影響するような、大きなケガさえしなければいいぐらいの気持ちです」
知られざる引退試合の“背番号事情”
――ところで、背番号18を着ける南さんを観るのは久しぶりです。大宮では「空いている番号からピンときた」という理由で、「35」を背負っていましたので。
「1999年のワールドユースで準優勝したとき、僕は18番を着けていたんです。たぶんみなさん、覚えていないと思いますが」
――ええっ、そうでしたか……調べてみると、1997年のワールドユースでも18番を着けていますね。
「自分の中ではずっと心の中にあった番号なんですが、レイソルのときは『1』か『21』でした。そこからロアッソへ移籍するタイミングで何かを変えたい気持ちがあり、『18』を着けるようになったんです。プロ野球とかを見ていると、『18』は超カッコいいじゃないですか」
――はい、エースナンバーです。
「『18』という数字をパッと見たときのイメージもすごく良くて、カッコいいな、きれいだなと。それもあって、ワールドユースのときに着けたというのもあるんです。で、ロアッソで着けて、横浜FCでもずっと『18』で、自分の番号みたいなイメージで、定着していってくれて」
――おっしゃるとおり、「18」が定着しましたね。
「もう一つ言うと、タカ(高丘陽平)が横浜FCからサガン鳥栖へ移籍したときも、ツバサ(渋谷飛翔)が名古屋グランパスへ移籍したときも、『18』を着けてくれたんですよね。それがすごくうれしかったので。今回、出場する選手に番号の希望を聞いたときに、ツバサが『18でお願いします』と言ってきたときは、『ふざけるな』と思いました(苦笑)。彼も僕がどういう反応をするのかは分かっていて、『あえて18にしてみました』と笑っていましたが」
――希望する背番号が、重なるケースもありますよね?
「背番号の割り振りは、実はなかなか大変でした。やっぱりみんな、こだわりがあるので」
――あるでしょう、あるでしょう。背番号はその選手のアイコンですからね。僕らの記憶と紐づいていますから。
「重なった場合は、どうか年功序列でお願いできますか、ということで対応してもらいました。一例を挙げれば、ボンバー(中澤佑二)とダイスケ(松井大輔)が『22』を希望してきたんですけど、ここはダイスケに譲ってもらいました」
クラブと日本代表で長年、22番を背負った中澤
――カズさんが『11』以外の番号を着けるとか、ちょっと考えられないですからね。
「BLUE LEGENDSだとバン(播戸竜二)も『11』が好きなんでしょうけど、カズさんがいるのが分かっているから、最初から『29』にしてきましたね」
――播戸さんの「29」は、プロ1年目に着けた番号。松井さんもプロ1年目の「26」になった。北嶋秀朗さんの「39」は、現役最後の熊本で着けた番号。みなさんやはり、ゆかりのある番号を選ぶのですね。
「なんとか、みんなに調整をしてもらいました」
1998年、ガンバ大阪で29番をつけてデビューした播戸
スターたちがプレーする貴重な機会をぜひ楽しんで
――さて、4回にわたる取材も最後の質問となりました。あらためて、どんな引退試合にしたいでしょうか。
「小野伸二のトラップとか、中村憲剛の『そこを見ているんだ』というパスとか、松井大輔のドリブルのステップとか。そういう高い技術とかスキルって、生ではなかなか見られないと思うんです。往年の名コンビみたいなプレーがあるでしょうし、いまでは実現しないマッチアップもあるでしょうし」
――市原吏音選手とカズさんがマッチアップしたら、それだけでも胸が熱くなりますね。
「そういう楽しみもあるでしょうね。とにかく、すばらしい選手たちが集まってくれたので、彼らがサッカーをプレーする姿を見られる貴重な機会を、みなさんに楽しんでもらいたいです。大宮のファン・サポーターのみなさんには、ゆかりのある選手がそろってくれたので、長く応援してくれている方にも喜んでもらえるかな、と」
――大宮アルディージャのファン・サポーターはもちろんですが、柏レイソル、ロアッソ熊本、横浜FCのファン・サポーターも、スタジアムで観戦したいと思う試合になりそうですね。
「そうなったら僕もうれしいです」
――それでは、南さんの好プレーを期待して、試合当日を楽しみに待ちたいと思います。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。